98年3月25日、ダンナと2人で初めてジッタリンジンのオールナイトライブに行きました。でも私たちにとっては行く前からが大騒ぎ。もちろん、ライブに大ゴキゲン。そして行ってからも、大盛り上がりの、春のお祭りのような出来事でした。
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夜9時、開場の時間。会場である大型ライブハウス・ベイサイドジェニーのドアの前には20人ほどの人がガヤガヤと集まっていて、「もうすぐ始まるのよねー」というウキウキした空気が漂っていた。私たちもすぐには入らず、その周りをウロウロとしながら、緊張と興奮と期待でゾワゾワしていた。ああ、ホッとした。無事、この日を迎えられた…。なにせここまでの道のりは、長かったのですよ、ホント。
[ライブ前:気合い入れてGO!の巻]
まず第一に、オールナイトで元気ギンギンで臨めるかどうかが不安だ。
そして第二に、ベイサイドジェニーまでの車の運転が心配の種だったのだ。自宅のある神戸からは車で30分、阪神高速湾岸線をズンズン走れば一直線でたどり着けるのだけれど、運転する私は、免許とって11年間ずーっとペーパードライバーで、1年ほど前に決死の覚悟で乗りはじめたけど、いま乗ってる車の走行距離はまだ2000kmにも満たないという、超初心者。そう、慣らし運転にも達していないの。だから当然、西は神戸市、東は西宮市までしか行ったことがない。高速道路なんて、トーゼン走ったことがないのだ。
当日はおっかなびっくり、高速の湾岸線に突入。ほとんど道は海の上に続いている。工場街のネオンは映画の『ブレードランナー』みたい。他に走っている車はなく、私たちだけが異次元にワープしたような錯覚に陥った。でも気持ちイイー! まるで夢の中のような風景だ。それまでのドキドキはウソのようにアクセル全開、真夜中のドライブは30分でアッという間に過ぎてしまった。助手席のダンナはひきつったまま「安全運転、安全運転」と呪文のように唱えていたが、ま、そういうことは置いといて、ともかく私は、気持ちよかった。
しかし、まだ着かないのである。高速を下りてなぜか道に迷ってしまい、40分以上グルグルと界隈を走り回ってしまった。地図を見ているダンナとの間に、険悪なムードが漂う。余裕を持って出たはずなのに、開演時間の9時が迫ってくる。うう、遠すぎるぞベイサイドジェニー。しかもやっと海遊館への道を見つけたと思ったら、警察が検問をやっているではないか。おまけに私の免許を返してもらっている最中、「お、あの車、逃げた!」「飲酒や」「目があった!」と、3人ぐらいのお巡りさんが恐ろしい顔でドヤドヤと私たちの2台後ろの車を追いかけ始めた。…あの、私は、もう行っていいんでしょうか…。取り残される私たち。行っていいよね、いいよね、と誰に言うともなく動き出し、やっと、ああ、やっと見えたぞ、海遊館。
長かった。ベイサイドジェニーの目の前にある駐車場が空いていて、「ラッキー!」と思いながら駐車。それが後でとんでもない事件になってしまうとは、このときは、知る由もなかったのだが、まあ、それは後の長い話へと続くのである。
[ライブDJ:幸せいっぱいの空気の巻]
そんなわけで、道のりが長かったぶん、前置きも長くなってしまった。やっと、ライブの話に戻る。9時過ぎにようやくベイサイドジェニーにたどり着いたあと、初めて、当日のチラシを目にして「え、DJって書いてある」と知った私たち。DJって、あの「キュキュキュキュ」って、レコードを鳴らすアレ? さあ? などと話し合う私たち(夫婦漫才じゃないんだから)。来るまでは大騒ぎだったワリには、なーんも知らないんである。いやはや、申し訳ない。オールナイトで、ジッタリンジンはいったい何時間プレイするのん?体力あるナーと勝手に想像していたが、そりゃそうだわな。これで疑問が解けた。
なかに入ってみるとすでに結構な人数のお客さんが入っていて、椅子は確保できなかった。スピーカーから流れる大音響が、ドーンドーンとお腹の皮を震わせる。おお、これこれ、これですよ。体に響く大音響。家では聞けない贅沢な音。聞いたことのあるJ-POPも、これだけの大音響で聞くと、改めていいなぁ!と聞きほれてしまった。ステージの上では、カアイイお姉さん(つっても、私よりずいぶん年下だろうけど)のDJが、踊りながら曲を変えていく。世の中からディスコがなくなってクラブというものに代わってから、私は長らく、こういう世界に足を踏み入れていなかったが、うーん、いいなぁ。レコード盤キュキュキュキュはなくて、ちょっとホッとした。
私たちは、ひとまずバーカウンターの近くに落ちつき先を見つけて、飲み物を飲みながらダラダラと過ごした。あたりを見回してみるとみんな若い。8割がティーンエージャーかと思うほどで、みんなお肌がツルツルしてる。あー、そうか。今日から春休みなんだ。チラシにも書いてあったっけと、何事も気付くのが遅い私なのだ。
さっきから私たちの前を行ったり来たりしている女の子は、茶パツのショートカットで、Tシャツにちょうちんブルマふうのショートパンツがカワイイ。お、その彼氏も茶パツ、ピアスのなかなかのハンサムボーイだ。“気分はすっかり松田優作”系アフロ青年もいるし、私の左隣には一昔前のディスコの黒服系の黒スーツのお兄さん二人組がやってきてスかして立ち、携帯電話が鳴った瞬間TMRの西川君系の男の子が、お行儀良く出入口まで走っていく。なんか友達や彼氏・彼女とすごく幸せそう。いろんな人のファッションも見れるし、なんだか私も楽しいぞ。自分の高校時代は、こんな楽しいことあんまりなかったナー、と遠い昔に思いを馳せてしまった。
ステージではガンガン曲が続き、DJの人も交替していく。その間、お客さんもどんどん増えてきて、気がつけばあんなに広かったフロアは人でいっぱいになった。場違いと思いながら私たちはたこ焼きと焼きおにぎりで“夜食”をとり、幸せそうな空気のなかに浸っていた。そして、日付が変わって深夜12時を過ぎた頃、いよいよジッタリンジンが登場したのだ!
[ライブ本番:熱い押しくらまんじゅうの巻]
『恋は突然に、ドレミファソラシド~』と、いきなりのパワー全開。オープニングは確か、この曲だった。…と思う。自信がないのは、いまさらながら言いにくいのだが、曲名がわからないから。この時点で持っているCDは『ハイキング』と『ハッピーカムカム』で、新しい曲を知らなかったのだ。
1曲目が始まったとたん、あんなにフロアを埋め尽くしていた人がドーッとステージの前に吸い寄せられて、私たちが立っていた周りは、人が少なくなってしまった。その代わり、ステージ前は早くも押しくらまんじゅう状態。2曲目、3曲目と続くにつれて、押しくらまんじゅうは、塊となって踊りまくり、床がドンドンと揺れる。「あれ? ここの床、板張りだったっけ?」というぐらいの揺れだ。名物の(?)のけんかはなかったが、ステージに登って人垣向かって飛び降りる人、その勢いで眼鏡を床に落とす人、それをまた踊りながらも一緒に探してあげて「おー見つかった。ちょっと割れたけど」などというかんじで盛り上がる人々もいてグッチャグチャ。
『プレゼント』『プリプリ・ダーリン』といったヒット曲では、みんな手を挙げながらの跳ねまくりとなった。ヒー、激しすぎる。私の前で一人、椅子の脚に足をかけて踊っていた女の子が「うー、たまらん」とばかりに、突進して押しくらまんじゅうに吸い込まれていく。私も、押しくらまんじゅうに入りたい…。
ステージは、あまりおしゃべりも休憩もなく、一気に走り続ける。入江さん(ドラム)、カッコいいなあ。春川さん(ヴォーカル)、すごい肺活量。赤髪のお兄さん(ベース。誰だろう?)、『星の王子様』みたいにフワフワ。ジンタさん(ギター)、…こ恐い。真剣な顔が恐すぎる…。
アンコールもあって、充実、充実の小1時間は、アッという間に過ぎてしまった。ステージ前の押しくらまんじゅうが徐々にほどけて、ムアーッと熱い空気が押し寄せてくる。「うあー、この曲いいなぁ」「あ、これもいいなぁ」と思いながら、曲名がわからないので、しみじみ聞きに入っていた私たちは、しばしボーゼン。家に帰ってから、もう一度CDを聞き直してみて曲名を思い出したのだが、『Sinky-Talk』には、ウットリしてしまった。そんでもって『Good Luck』には涙が出てしまったのだった。
[ライブ後:朝焼けのジッタリンジンの巻]
ライブが終わっても、すぐに帰ろうという人はあまりいなくて、飲み物を飲んだり床に座り込んでダベったり、みんな思い思いに余韻に浸って(?)いるようだった。第一、電車が動いていないから、帰りようがない。
ファンクラブの入会申し込みのコーナーにも、人だかりができていた。私たちも『チカビディ』のCDを買った。フフフ、もう一度聴くゾーと、胸が高鳴る。ライブが終わってからも、まだまだDJは続き、元気の残っている人たちはDJに合わせて踊っている。しかしさすがに、3時を過ぎると、疲れたり酔っぱらったりして、床にへたりこむ人も目立ってきた。DJだけは大音響。そのなかで、スヤスヤと眠る人たち。うーんシュールだ。でもこれが、青春だ。なんか、よーわからんけど。
「さて、そろそろ帰るか」。ベイサイドジェニーを出て駐車場を見ると…。なんと、駐車場が閉まってる。つまり、閉じこめられてしまったのだ。夜10時かそこらで閉まるという注意書きは、管理ボックスの脇の目立たないところ(しかも、駐車場内側!)に貼ってあったそうだが、そんなもん入るときに見えるかぁ! 不運な車は、私たち以外にもう1台あったが、私たちがそこを離れてグズグズしている間に、ある方法で、強行突破して出ていってしまった。ああ、またも取り残される私たち。しかたない。近くのコンビニでヤキソバ弁当を買って食べたり、近所を散歩して朝まで時間をつぶすことにした。
「なんか、こんなふうに夜通し外で遊ぶのって、久しぶりだね」
ダンナと恋人気分で夜の散歩を楽しんでいるうちは良かったが、さすがに退屈してきた。時計を見ると、午前5時過ぎ。これなら、電車で来たほうが、帰りはラクだったかしらん。第一、ここって朝の何時になったら開くワケ? ダメもとで、海遊館を挟んだ反対側に管理事務所がないものか探しに行ってみた。運良く当直のおじさんに出会い、出入口の鍵を開けてもらってやっと駐車場を出ることができたのが5時半ごろ。でも、いいんだもん。帰りの湾岸線からは、きれいな朝焼けを見ながら帰ることができたから。
さて、大騒ぎとハプニング続出のベイサイドジェニーライブ、私たちにとってはまだ続きがある。あれから1カ月というもの、『チカビディ』と『ハッピーカムカム』を毎日毎日家でも仕事場でも聞いていた。オーディオマニアのダンナは、前々から「作る作る」と言ってはグズグズ先延ばしにしていたスピーカーの脚を、「よし、この機会に」と作ってしまった。「う~ん、音が良くなった」とご満悦だ。
そしてついに5月の連休明けには、車のなかでもテープで聞くようになった。おかげで天気のいい日は「晴れた日に、おじいちゃんと~」と歌詞が口を突いて出るし、自転車をこぎながら「毎日フラフラ、君の町まで行き~」とハナ歌してしまうし、何か捜し物をしながら「ハニー、チョコラプリンセス、ハニー~」と歌いながら踊っている。もう、こうなったら幻聴みたいなもんだ。よし、明日からはしばらく、ジッタリンジン禁止! んでもって、次のライブを楽しみにしとこう。次のライブは、きっと私たちも曲名がわかっていることだろう。<>